
(独)農研機構果樹研究所では、ミカン産地住民を対象に栄養疫学調査を行い、ミカンが生活習慣病の予防に役立つ可能性を明らかにしました(果樹試験研究推進協議会(注1)は研究費の一部を負担し、この研究を支援しています)。この成果は医療・栄養指導分野の専門職の皆さんに認知されなければなりません。
このたび、研究担当者の杉浦実主任研究員が日本臨床栄養学会の教育講演(平成22年8月28日、名古屋国際会議場)に招待され、「β-クリプトキサンチン(注2)と生活習慣病:最新の疫学研究の知見から」と題して講演を行いました。医療・栄養指導分野に向け「健康増進への果物の役割」をアピールできる絶好の機会でしたので、果樹試験研究推進協議会ではこの講演に併せ、学会会場にブースを設け、杉浦主任研究員の協力も得て、研究成果の紹介活動を行いました。
●講演の内容:
本題に入るのに先立ち、果物消費が先進諸国に比べ著しく少ない我が国の現状を紹介しました。
本題はがん予防研究の紹介からスタートしました。がん予防にβ-クリプトキサンチンが有望とする疫学研究の報告が多いこと、京都府立医科大学での肝臓がん予防の臨床ヒト試験で、マルチカロテン(β-カロテン、α-クリプトキサンチン、リコペン)にβ-クリプトキサンチン高含有のミカンジュースを組み合わせることで肝臓がんの発生抑制効果をマルチカロテンだけの41%から81%まで高められたことを示し、がん予防の分野でβ-クリプトキサンチンが注目されていることを紹介しました。
次に果樹研究所による静岡県民6049人のアンケート調査の結果を紹介しました。ミカンシーズン(10月〜2月)に毎日4個以上のミカンを食べる人では糖尿病、高血圧、心臓病、痛風を罹っている人が少ないことが紹介され、更に、果物を食べることで高脂血症、肥満症になるとの風評が世間にはあるのですが、ミカンをよく食べる人も殆ど食べない人と同程度の発症率であり、ミカンを多く食べるからといって高脂血症、肥満症が多いことはありませんでした。
次にミカン産地での研究、三ヶ日町研究を紹介しました。ミカンをよく食べる人は必ずβ-クリプトキサンチンの血中濃度が高くなります。そのような人では@飲酒、高血糖による肝機能障害、Aインスリン抵抗性B動脈硬化C閉経女性の骨密度低下D喫煙者のメタボリックシンドローム、それぞれのリスクが低いことが明らかにされています。また、血中に含まれるβ-クリプトキサンチン以外のカロテノイド5種の結果についても比較検討した結果をまとめて紹介しました。今回調査した@〜Dのリスクとの関連についてはルテイン、ゼアキサンチンでは殆ど認められず、リコペン、α-カロテンでは一部にとどまり、特にβ-クリプトキサンチンとβ-カロテンには優れた効果が期待できること、β-クリプトキサンチンがより優れている場合とβ-カロテンがより優れている場合がありました。以上から、β-クリプトキサンチンの供給源であるミカンが生活習慣病の予防に役立つ可能性があると結論しました。
講演後の質疑で、「最近は甘いみかんが増えているがカロリーや糖分が昔の酸っぱいみかんと比べる著しく多くなっているのではないか、そのようなミカンではむしろ健康に悪影響があるのではないか」との質問がありました。酸っぱいみかんに比べると甘いみかんの甘さは際立っているので、糖分が著しく多くなったと考えがちですが、それはまったくの誤解です。甘くなったからといって、カロリーが何倍にも増えている訳ではなく、たとえ糖度10度のミカンが12度になってもカロリーは1.2倍程度に留まります。したがって、甘いミカンを必要以上に危険視するのは当たらないと説明しました。

(果樹試験研究推進協議会)
(注釈)
「日本臨床栄養学会」:名古屋国際会議場を会場に医療・栄養学研究者、医療機関の管理栄養士など千余名が参加。
注1:日本園芸農業協同組合連合会など果物生産者団体中心に43会員で構成。先進諸国に比べ、我が国で極端に乏しかった「果物と健康」の研究を受益者の自助努力で盛んにすることの「理念」の下、生産者団体の拠金で、大学、公的機関の優れた研究を支援する活動を行っています。設立以来4年余、優れた研究成果が蓄積したことから、研究支援の活動に加え、国民各層、まずは医療・栄養指導分野に広める活動にも力を入れ始めています。
注2:ミカンに特異的に多く含まれるカロテノイドで、ミカンを良く食べる人はこのカロテノイドが健康増進に役立っている可能性があります。